私の青年期

2022年11月に30歳になりました。焦っています。

31才まで残り32日 -電車で口角を上げること-

帰りの電車はわりと混んでいたが、途中で座ることができた。ひと息ついて周りの人を見渡すと、皆あんまり幸せそうな顔をしていない。眉間にしわを寄せて深刻そうにしていたり、退屈そうに憮然としている。そういう自分も、今週の忙しさに不安を感じて強張った表情をしていた。せめて自分だけでもと、ちょっと口角を上げてみた。目も大事だ。油断すると死んだ目になってしまうから、気持ち見開いてみた。

もう一度見渡してみると20代くらいの男女、おそらく職場の先輩後輩だろうが、何かちょっと良い雰囲気になっている。プリントを見て勉強している中学生も、何故か口角が上がっている。なんだ、楽しそうにしている人達もいるじゃないか、と安心した。

だが、その隣の若い女性は目をぎらぎらさせながらスマホを操作している。怒っているようでもある。まるで恋人が浮気している裏アカでも見つけたかのように。ああ、やっぱりこの時間帯の電車は、ゆるく幸せな空間には成り得ないのだ、と再び暗い気持ちになる。ああ日本に住む人たちはみんな大変だ。

 

そう思っていると、どこからか揚げ物のにおいがした。これは、明らかにファミチキだ。地下鉄でファミチキ??

混乱する頭で隣を見ると、50代くらいのいかめしいサラリーマンが立っている。特にファミチキやビニール袋を持ってはいない。だが、においは明らかに彼の方から来ている。トートバッグ型の仕事鞄を肩にかけているが、その中にファミチキが忍ばせてあるのか?と考える。それとも地下鉄に乗り込む直前まで食べていたファミチキの残り香か?

可能性がないとは言い切れないのは、体臭説と香水説だ。50代になると体臭がファミチキに近付くという可能性、ファミチキの香りのフレグランスを愛用しているという可能性。0.01%くらいは可能性がある。

 

そんなことを考えていると最寄り駅に着いた。口角は自然と上がっていた。自分が腹を空かしていることに気付き、足早に帰路についた。


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